その他の肛門疾患
痔以外の肛門疾患についてご紹介いたします。お困りの際はお気軽にご相談くださいませ。
直腸脱
病態
「直腸脱(ちょくちょうだつ)」とは、直腸が肛門から脱出する(外に飛び出す)病気です。肛門挙筋、肛門括約筋といった骨盤底や肛門周辺の筋肉が弱くなって、直腸を支えきれなくなることが脱出の主な原因と考えられています。小さな子どもや若い世代にも発症しますが、最も発症しやすいのは高齢の女性です。
症状
初期の段階では排便時にだけ直腸が肛門から脱出し、排便後には自然に肛門の中へと戻ります。しかし、進行すると排便後に指で肛門の中に押し込まないと戻らなくなり、やがて排便時以外の、たとえば歩行時などにも脱出するようになります。
ひどい状態になると、10~20cmほどの脱出がみられる場合もあります。この他、脱出による肛門部の違和感や痛み、脱出した直腸粘膜からの出血、便の漏れや便秘、残便感といった排便障害などの症状が現れます。
治療
成人の場合、直腸脱を治すには手術が必要です。主な方法には、直腸をお腹側からつり上げて固定する経腹的手術と、肛門側から押し戻して固定する経肛門的手術があります。
経肛門的手術は開腹の必要がないので身体的負担が少なく、高齢者などにも適した方法といえますが、再発のしづらさでは経腹的手術に劣ります。その経腹的手術も、最近では開腹せずに身体的負担の少ない腹腔鏡を用いた方法が一般化しつつあります。一方、小さな子どもの場合、便秘の予防や適切な排便方法の指導などによって、多くは成長とともに自然治癒します。
肛門周囲皮膚炎・肛門掻痒症
病態
「肛門掻痒症(こうもんそうようしょう)」とは、肛門周辺にかゆみが生じる病気の総称です。代表的な原因は痔、肛門ポリープ、直腸脱といった他の病気によるものや、下痢、便秘といった排便障害によるもので、いずれも分泌液や便などから肛門周辺の皮膚が刺激や傷を受けることでかゆみが生じます。
また、肛門周辺の皮膚にできた傷などに細菌や真菌が入り込んで感染症を起こすこともかゆみの原因となります。さらに、最近では排便後に紙で拭き取り過ぎたり、温水洗浄便座で洗い過ぎることで肛門周辺の皮膚が傷つくなどしてかゆみが生じるケースも増えています。
症状
肛門周辺にかゆみが生じ、かくことでただれや湿疹、腫れといった皮膚炎の症状が現れます。
治療
かゆみや皮膚炎といった肛門掻痒症自体の症状に対しては、生活習慣を指導するとともに原因や症状の程度に応じた軟膏や内服薬を処方することで治療します。
また、類似症状を持つ皮膚カンジダ症、ぎょう虫症、皮膚がん、尖圭コンジローマなどの病気と鑑別するためにも大腸や肛門に他の病気が潜んでいないかをしっかりと診断した上で、他の病気がかゆみの原因であることが明らかになった場合は、そちらの治療も同時に進めます。
直腸瘤
病態
「直腸瘤(ちょくちょうりゅう)」とは排便時のいきみなどによる圧力で直腸が膣の方へと瘤(こぶ)のように突き出てくる病気です。「直腸膣壁弛緩症(ちょくちょうちつへきしかんしょう)」とも呼ばれます。
直腸と膣の間にある壁が加齢や出産、慢性の便秘による日常的ないきみ過ぎなどによって弱くなり、直腸からの圧力を抑えきれなくなることが原因と考えられています。
症状
直腸の突出でスムーズな便通が妨げられて、便が出にくい、残便感といった排便障害が起こります。排便時に膣の中や会陰部(膣と肛門の間)を指で押すと便が出やすくなる場合もあります。
また、膣壁が大きく膨らんで脱出がみられたり、排便障害にともなって痔核や裂肛を合併しやすくもなります。
治療
直腸瘤があっても特に支障を感じる場面がなければ、治療を行う必要はありません。排便障害に対しては生活習慣を指導するとともに内服薬や坐薬を処方しますが、薬では解消が叶わないほど直腸瘤のサイズが大きかったり、突出の程度がひどい場合は手術にて治療します。
基本的には直腸と膣の間にある壁を縫い合わせて補強することが目的になりますが、その主な方法には膣側から行う経膣的手術と、肛門側から行う経肛門的手術があります。
肛門ポリープ
病態
「肛門ポリープ」とは、直腸と肛門の境目に並んでいる肛門乳頭という細長い凹凸がイボ状に変化して生じる硬いできものです。主に下痢や便秘といった排便障害によって肛門乳頭が慢性的に刺激を受けたり、炎症を起こすことで発生します。
また、裂肛や肛門からの脱出をともなう内痔核の慢性化が原因となるケースも少なくありません。
症状
大きさは直径数mmから数cmまで、また、形状も団子状やきのこ状などさまざまですが、中には長い茎を持った有茎性ポリープと呼ばれる状態になるものもあります。
小さいものは無症状ですが、大きくなると排便時に肛門から脱出する場合があります。通常痛みはありませんが、脱出したポリープが裂けて出血や激しい痛みをともなう場合があります。
治療
ポリープとはいえ、がん化の心配はないとされています。ただし、放置しても自然治癒するものではないので、ポリープの大きさや肛門からの脱出程度に応じて切除することで治療します。
その際、切除は通院で可能な外科的処置として行えますが、裂肛や内痔核が原因の場合はそちらの治療にて手術を行う場合があり、その中で同時に切除することになります。
肛門尖圭コンジローム
病態
「尖圭コンジローマ(せんけいこんじろーま)」とは、ヒトパピローマウイルス(HPV/Human PapillomaVirus)の感染を原因として、感染した部位の周辺にイボが生じる病気です。
人の皮膚や粘膜にある傷が直接の感染経路ですが、そのきっかけのほとんどは性行為であるとみられ、発症すると主に性器や肛門の周辺にイボが現れます。基本的に誰でも発症する可能性がある病気ですが、特に10代後半~30代の若い世代に多くみられます。
症状
ウイルス感染から3週間~8ヶ月ほどの潜伏期間を経て発症します。イボの大きさは数mm~数cmとさまざまで、先がとがったような形のものが多いのが特徴です。
最初は小さなものでも徐々に大きさを増したり、数を増してカリフラワー状に固まることもあります。イボに痛みやかゆみを感じることはほとんどありません。
治療
現在のところ、原因ウイルスそのものに対する薬がないので、電気メスなどでイボを取り除く外科的処置が治療の基本となります。この他、最近ではイボに対してある程度の効果が確認されている軟膏を処方することで治療を進める場合もあります。
ただし、イボがなくなっても、その周辺にウイルスが潜んだままの場合があり、再発率は決して低くありません。
肛門がん
病態
「肛門がん」とは、肛門とその周辺に発生するがんの総称です。腺がんや粘液がん、扁平上皮がんの他、悪性黒色腫や乳房外ページェット病、ボーエン病など、肛門にはさまざまなタイプのがんが発生することがわかっています。
また、慢性化した痔ろうががん化することで起きる痔ろうがんも肛門がんの一種とされています。ただし、肛門がんの発生頻度は非常に低く、たとえば大腸がんの約4%に過ぎません。
症状
肛門から出血したり、分泌液が流れ出たり、肛門に痛みやかゆみが生じます。また、肛門の内部に硬いしこりができて便が細くなったり、便秘や便が漏れるといった排便障害も現れます。
治療
どのタイプであれ、それぞれのがんの特徴や発生部位、進行度などに基づいて、手術、放射線治療、抗がん剤治療といった治療法の中から最適なものを判断して治療を進めます。
膿皮症
病態
「膿皮症(のうひしょう)」とは、汗を分泌する汗腺が多い部位の皮膚に膿をともなう炎症が発生する病気です。中でも男性の肛門周辺や臀部に発症する例が多いことから、「臀部慢性膿皮症」とも呼ばれています。
原因はブドウ球菌やレンサ球菌が汗腺で繁殖することとされています。
症状
肛門周辺や臀部の皮膚に痛みをともなうしこりができ、それが赤く腫れて膿瘍(膿がたまったできもの)が形成され、最後にたまった膿が皮膚を突き破って排出されます。
この一連の過程が同時に多発することで、腫れや膿瘍同士がつながって範囲を広げていき、やがて膿が排出されては再発を繰り返す慢性化した状態が臀部全体にまで広がることもあります。その頃には皮膚が黒ずんで硬くなったり、広がった化膿による痛みで座ることも難しくなります。
治療
症状が軽い段階では抗菌薬の処方とともに、膿瘍を切開して膿を排出させることで治療を進めます。しかし、慢性化で症状が繰り返されているような場合は患部を切除する手術を行い、切除後の欠損の大きさに応じて皮膚を移植することもあります。
毛巣洞
病態
「毛巣洞(もうそうどう)」とは、臀部の尾骨近辺の皮膚に膿をともなう炎症が発生する病気です。原因は体毛が皮膚の下に刺さったり入り込んで細菌が繁殖することとされています。
実際にほとんどのケースで患部から毛が回収されており、それが病名の由来にもなっています。多くは20代までの若い世代に発症し、特に体毛の濃い男性が発症しやすいともいわれています。
症状
臀部の尾骨近辺の皮膚に痛みをともなうしこりや腫れ、膿瘍が発生し、時々膿が排出されます。放置すると、膿瘍から膿の通るトンネル状の管が伸びていき、臀部の広い範囲に化膿が広がる膿皮症に発展する可能性もあります。
治療
基本的には手術で患部を切除するしか根治させる方法はありません。また、術後は比較的高い確率で起きるとされている再発を防止するために、患部の除毛を行う場合もあります。